風の谷のナウシカの“その後の物語”――『風の谷のナウシカ エピソード3』

ナウシカの闇落ち

ナウシカが急に世界のすべてを悟り、墓所を破壊した背景には、漫画のセリフの裏に隠された以下の「点と線」がありました。

• 腐海の真実: 腐海や王蟲は自然物ではなく、旧人類が世界を浄化するために作った「人工システム」だった。

• 人間の体の真実: 現生人類(ナウシカたち)もまた、毒(汚染物質)がないと生きられないように遺伝子を改造されていた。世界が完全に綺麗になると、免疫が暴走して血を吐いて死んでしまう「使い捨ての掃除道具」だった。

• 墓所の計画: 世界が綺麗になった後、墓所で眠る「清浄な新人類の卵」を目覚めさせて新しい世界を始めさせる。ナウシカは、自分たちの命が過去の亡霊にプログラムされていたことが絶望的に許せませんでした。「私たちは闇でいい」と言い放ち、墓所を破壊。しかし、「このままでは人類はいずれ綺麗になった世界で滅びる」という残酷な嘘を一人で抱え、みんなの前から姿を消します。

200年後の未来

全員に「神(救世主)」として崇め奉られ、誰にも言えない孤独な嘘を抱えたナウシカは、かつて自分が最も憎んだ「墓所の主」と同じ、冷酷な独裁者(悪い奴)に変貌します。土鬼(ドルク)の初代皇帝がかつて良い世界を目指しながらも独裁者になったように、ナウシカもまた「闇落ちのループ」に囚われます。

■ 黒いヘルメットと「クホー」という呼吸音

200年後、世界は腐海によってどんどん浄化され、空気が綺麗になりすぎています。汚染された世界でしか生きられない肉体を持つナウシカは、綺麗な空気を吸うと血を吐いて死んでしまうため、あえて内部に「毒(瘴気)」を循環させる黒いヘルメットと黒いマントに身を包みます。「クホー」という不気味な人工呼吸音を響かせながら、世界を恐怖と嘘で管理する、まさに「悪の帝王」と化したバイオサイボーグ帝王ナウシカ。

■ クシャナの遺志を継ぐ「反乱軍」

かつて、ナウシカと心を通わせながらも「現実を泥臭く生きる大人の責任」を選んだクシャナ。彼女は生涯女王にはならず、民のために生きて散りました。200年後、そのクシャナの精神を受け継ぐ反乱軍の若者たちが、黒い帝王ナウシカに立ち向かいます。

因縁の決戦、そして「ナウシカの間違い」

反乱軍の主力となるのは、ふたつの血統の末裔です。

• アスベルと風の谷のメーヴェに乗った少女の血を引く「空の主人公」

• 旧世界の遺伝子工学の秘密を受け継ぐ「墓所の生き残りの末裔」

彼らの世代は、目の前の黒い帝王が、自分たちが自由の象徴として憧れる「伝説の青き衣の聖女ナウシカ」であるとは知りません。死力を尽くした作戦の末、若者たちは帝王ナウシカのヘルメットの生命維持装置(ホース)を叩き斬ります。

ヘルメットの中に「完全に不純物のない、美しく綺麗な風」が流れ込み、帝王は激しく血を吐いて崩れ落ちました。仮面が割れ、ナウシカの素顔が現れたとき、彼女は「お前たちも、この綺麗な空気で間もなく死ぬ……」と絶望の呪いを告げようとします。清浄化された空気、逆にナウシカにとっては有害な毒を吸ったナウシカの顔は血管が浮き出て苦しそうです。しかし、進化した新しい世代は、マスクもつけずにその綺麗な空気を胸いっぱいに吸い込んで、元気に笑っていました。

■ ナウシカの誤り

ナウシカの最大の計算違いは、生命を「プログラムされた固定のもの」と過小評価したことでした。人間という「いのち」はタフでした。じわじわと綺麗になっていく環境のなかで、ダーウィンの進化論の通り「清浄な空気に順応できる遺伝子」を持った個体が自然選択で生き残り、世代交代のなかで自らをアップデートしていたのです。それは、旧人類が遺伝子の奥底に仕込んでいた本当の救済(予定)でもありました。人は分かり合えた。けれど、あの時のナウシカだけが、人の可能性を信じきれずに間違った選択をしてしまったのか。

神話の終わり、人間の歴史の始まり

若者たちは、人類の未来を支配し、冒涜しようとしたこの不死のバケモノ(ナウシカ)に対し、思想の対話など行いません。「人類を冒涜するような不死の能力なんて!」と怒りをぶつけ、ただの原始的な暴力で、ナウシカの顔をボコボコに殴りつけます。ナウシカは顔をボコボコに殴られながら、激しい痛みのなかで気づきます。「人間は自分が管理しなくても、ちゃんと新しい世界に適応し、そして自分たちが恐れていたような戦争もせず、いがみ合わない平和な世を当たり前のように続けていたのだ」と。自分の200年の支配も、嘘も、すべてはただの思い込みが生んだ無駄骨だった。しかし、人間は絶滅しない。ナウシカは「人間を信じきれなかった自分のエゴ」を痛感しつつも、「人間はこんなに強くて優しかったんだ」と、クシャナの笑顔が記憶に浮かび、これ以上ないほど満たされた気持ちで息を引き取ります。

残された人類は、旧人類のことも、かつての世界の汚れも何も「知る由もない」まま、壊れた黒いヘルメットを旧時代のガラクタとして川へ投げ捨てます。過去の呪縛から完全に切り離された真っ白な未来のなかで、新しい世代は、ただ目の前にある青い空と緑の大地だけを見つめ、自分たちの足で歩き出していくのです。――『風の谷のナウシカ エピソード3』

完あとがき

「なぜ墓所を破壊したのか」という原作の謎は、ナウシカが相手の「闇」を分かりすぎてしまったがゆえの拒絶でした。しかし、その先に広がる「生命の適応力(進化論)」というリアルな視点を持ち込むことで、ナウシカという聖女が一度最悪の魔王になり、最後は泥臭く人間に殴られて救われるという、究極のグランドフィナーレが見えてきます。原作漫画をもう一度読み返したとき、あなたにはナウシカの抱えた「嘘」がどう映るでしょうか。